ジールの第10回銀蛇自警団報告書(Dimensional Travel)とは、2012年7月19日に開催されたライブイベント、第10回銀蛇自警団出動指令 - 次元旅行の報告書として Siel の提出したレポート。2012年7月26日に YAMATO EM SITE の第10回銀蛇自警団活動報告として掲載されたほか、Yamato のEMリワードホールに展示された。
ジールの第10回銀蛇自警団報告書(Dimensional Travel)
Siel 編
研究論文:次元旅行
Dimensional Travel: a Monograph
魔術師ドリアス・ドースト
by Dryus Doost, Mage
ムーンゲートは生身の身体を場所を超え世界を超え、さらには次元を超え移動させ得るものだが、本論文ではその世界構造を歪める仕組みや詳細を扱ったものではない事を予め断っておきたい。
本書ではわが国の民に共通して不思議な特性を示す事を報告したい。
青いムーンゲートが遠くの土地へと運んでくれる事は、 古くから知られており、ゲートを潜った際に事故が発生したという話は耳にした事もない。だが次元を超えての旅する事のできる黒いムーンゲートは、 とある条件を満たす者は潜る事ができない事。この事実は、一部の者の間で知られるのみだった。
以前、 高名な魔道師であり、 貴族でもあるロード・ブラックソンとの対談の中で、 彼は自らの研究の結果、 黒いムーンゲートを潜れぬ人々は総じてエーテル保存に問題があるのだ、 と語ってくれた。
任意の次元に存在する物質が、 多重次元に存在する物質の一部に過ぎないのだと仮定した場合、 任意次元で既に存在する物質が同時に存在し得ない事は自明なのだと。
多重次元に何らかの形で同一存在があるのだと考えてほしい。 ロード・ブラックソンは、 自らもその一人であると仄めかしていた。
それは、 別の次元へ転移できぬ事を意味している。 なぜなら、 彼は既にそこにいるのだから。
これは驚愕に値する発想であり、 より詳細な研究が待たれる。
因果律がエーテルの分離を引き起こす際、 人々のエセリアル構造をも分離する事実は、 既に専門家の中では周知である。
これは、 白いムーンゲートで時間旅行する際の基本的な過程であるのだ。
過去の自分と出会う事は別の意味で危険なのだろうが、 過去に存在する事実が時間旅行の妨げとなる事はない。 同一時間上で様々な構造が生じる事をエセリアル構造は防いでおり、 なんらかの剛性を備えているのだろう。
時間と因果律の関係が、さながら蜘蛛の巣のようであるならば、 次元配列は堅い結晶構造と言い表す事ができるだろう。
ロード・ブラックソンのように多重次元配列に存在する者が、 黒いムーンゲートを用いて別次元を訪れ、 存在できるようになるのは、 次元の結晶構造全体が完全に同調した時のみだと言える。
なにゆえに一部の者のみ多重結晶配列内に同一存在がいるのか、この貧弱な理論ではそのようになるのだとしか言えない。 だが、 いつか誰かが、 この難問を解き明かし、 啓発の光を降り注ぐに違いないと、 身勝手にも私は確信しているのだ。
ドリアスドーストについて
我ら銀蛇自警団がその調査に立ち会った魔術師ドリアスドーストとは、 メイジ評議会の重鎮である。
ただし、魔術師アノンが政治分野で名高いのに対し、 ドリアスの名は魔術研究で知られる。
我らはサーデュプレの仲介で、 この高名な魔術師と会偶の機を得た。
もっとも、 表向きは敵対する立場にある事からねずみのシェリーから紹介される形式とせざるを得なかったのだが…。
伝説のみに語られる破片世界の終焉では最後までその回避に尽力した魔術師だ。
すなわち本著に語られる黒いムーンゲートを潜る事できぬ一部の者とはドリアス自身も含まれるのである。
我らの世界に終焉が訪れるときドリアスもまた我らとともに破滅に抗う者として、 名を挙げるに違いない。
願わくば、 伝説とは異なる結末を、 我らが迎えんことを。
裂け目
我らは名誉のムーンゲートから邪な魔術師が現れ出たことから、 世界の綻びが別の場に生じていると類推し、 実際に幾つかの裂け目を発見した。
発見した裂け目が、 全てであるとは思わない。
しかし、 共通して観測された事実は裂け目を繋ぎ、 結ぶはやはり"イルシェナー"の地であったということだ。
次元を越え跨ぐでもなく破片世界の断面を越えるでもない閉鎖的な裂け目は、 一見したところ単なる長距離転移装置に過ぎない。
我らに名誉のムーンゲートの崩壊と映った事象は、 いったい何をもたらしたのか。
ムーンゲートが時間と場所を制御して成り立つものであるのだとすれば、 時間を司る制御が失われたということであろうか。
注意せよ。
我らが見るは未来への希望か過去の悪夢か。
常設型転移装置、その生成と維持について
我らがムーンゲートと呼ぶ楕円の門を常駐させる魔術行程は未だ公とされていないが、 維持させるために魔力の消費が不可欠であろうことは容易に想像できる。
では、 何者が魔力を供給しているのか。
生命ある身で膨大な消費を強いるムーンゲートを、 常駐させ続けることは不可能であろう。
故に、 世界に満ちるエーテルを触媒として魔力を生成する機構が付随しているのだと私は考察するのだ。
多くのムーンゲートに共通する機構、 それは周囲を取り囲む岩だ。
魔術的機構すなわちルーン文字が描かれ、 永続的な魔術行程が維持されているに違いない。
しかし、 異なる魔術行程がある事も既知である。
イルシェナー世界で上述の岩をその周囲で確認することはできないのだ。
代わりにその全てで神殿が近隣に存在し、 アンクの奇跡を体験することができる。
神殿を通じて維持に必要な力が供給されているに違いないだろう。
イルシェナー世界の神殿、そのことごとくを破壊せよ。
さすれば我らの世界と繋ぐ道は絶たれ、 そこに生まれし災禍を封じる事も適うだろう。