2012年08月23日
不快な呪文を編む者

第11回銀蛇自警団前日譚 -不快な呪文を編む者(Whammy)とは、2012年8月23日に開催された物語第11回銀蛇自警団出動指令 - 魔法教室の報告書として Sielの提出したレポート。2012年8月30日に Yamato のマラス世界にある EM リワードホールに設置された。

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第11回銀蛇自警団前日譚(Whammy)
Siel 著

不快な呪文を編む者

かのメイジ評議会の重鎮ドリウス・ドースト氏が、我ら銀蛇自警団員に対して教鞭を振るうとの申し出は、驚きをともない伝えられた。魔術研究者の例に漏れることなく、氏もまた決して社交的な人物とは言い難いお人柄であったからだ。

団員らは、貼り出された告知を見るなり、ある者は酒場で頭を抱え、ある者落ちつき泣く魔術書をめくった。

実に魔術師然とした団員は言葉の羅列を書き留めていた。気づかれる事もなかろうと、団員の手元を背中越しに覗き見ると、移動を司る言葉を中心に組み立てようとしている最中だった。

"先生は名誉のムーンゲートの状況に興味がおありのようだから、転移系術式はお喜びになると思うの"

おお、なるほど。私もムーンゲートについて考えよう。はて、月はなんといったか。おお、"ORB"だったか。

赤紫色に合わせたt服で身をかためる団員は熱心にガーゴイル語の辞書を読み込んでいた。いまさら、なにゆえ。

"力の言葉以外でもいいっていうなら他の言語も学ばないと"

おお、おお、なるほど。それでは私も書籍を読めるようになったらオーク語の文法なる書籍を探すとしよう。

"さっきからオーオーうるさい"

叱られてしまった。

幼さの残る顔立ちをした軽装の団員は、椅子に腰掛け、足をぶらぶらと揺らしつつ呟いた。

"いまさら魔法の講義と言われても困るよね。ボク…魔法使えるもん。"

確かに。蒙を啓くというのであれば、我らは決して相応しい生徒と成り得ないだろう。では別の意図があると考えるべきか。

その団員はぺらぺらと捲っていた魔術書を開いたまま机上に置くと、それでも愉しそうに言った。

"でも…、この宿題は面白いね。宮廷魔術師が聞いたら頭から湯気を出して怒りそうなお題だよ。"

そうなのか。宮廷の魔術師も宿題は嫌いなのか。実に気が合いそうだ。

"…違うよ、なんでブリタニアの魔法が64種類しかないのか考えたことある?"

誰にも聞こえていない、と思えばこそ呟いたのだが、こいつは応じてきた。周りを見渡してみたが、私の呟きに応じたのは間違いないらしい。うちの団員は変なのばかりと思っていたが、特別に物好きな奴だ。

しょうがない、考えるとするか。魔術書の頁数の制限だろうか。いや違うか。

"公開する魔法は厳正に審査してるからさ。"

おお、なるほど、無知な民草が外道に落ちないための統制というわけか。ふむ、だがそれではこの違和感はなんだ。私は机上に置かれた魔術書が風でぺらりぺらりとめくれていくのを眺めた。

団員は笑みを絶やすことなく付け加えた。

"今じゃ審査をしてはないし他から流入した魔法もあるから昔ほどの統制は保たれちゃいないけどね。"

公開されている音節が26種類か、そして公開されている呪文の音節は多いもので4音節もあるな。全ての組合せは47万通りを越えるぞ。

"実際には同じ音節が重複してもはっきりとした変化は生じないし、順番の変化による違いも少ないみたいだよ。"

おお、なるほど。重複がないなら約37万通りに減るな。順番も気にしないのなら、おお約9万通りまで減ったぞ。しかし、充分に多いだろう、これは。

"実際には組合せて何の意味もない呪文もあるだろうけどね"

それでも公開されている呪文は少なすぎるな。ブリタニアの魔法は統制されたものとは冗談ではないようだ。だが、それならば、何故だろうか。

机上で風になびいてめくれていた魔術書がようやく、ある呪文を記す頁までめくれたことを確認すると、私はその頁を指差した。

団員は合点が言ったというように頷く。

"リルビニアン事件の以後もその魔法が禁呪に指定されていないことにはね、ボクもいささか好奇心を抑えられないよ"

団員は周囲を見渡して言った。

"さあ閣下、与太話はこれでおしまい。そろそろ新しい冒険に出発の頃合いだよ"

冒険じゃなく講義のはずだ。

団員は肩を竦めると机に置いてあった袋を担ぐ。団員の背にあたり、袋はがしゃり、と音を立てた。まったく講義中に飲んだくれるつもりか。とんだ不良生徒もいたもんだ

がしゃりがしゃり、と背で音を立てながら、団員は足早に先を駆けていく。

私は合流場所へ歩きながら考えた。なぜ、こんなことをするのか。我らに情報提供するには回りくどい。ドースト氏は既に名誉のムーンゲートについて何か気づいているのか。だが直接は伝えることができまい。メイジ評議会での立場もあるのだろう。我らに、その何かを気づかせ、メイジ評議会に先んじて事件の解決をさせる腹だろうか。

とてとてと駆けていたはずの団員はいつの間にか足を止め、私をじっと見つめていた。

"閣下、そのままで行く気かい。"

私が首を横に傾けて応じると、その団員はやれやれと肩をすくめてみせた。

"仕方ないなあ、じゃあ清く正しい呪文の発音をば、教えてしんぜようなのです。"

そういうと、大仰な身振りをともないつつ呪文を編んだ。

"AN CORP"

投稿者 Siel Dragon : 2012年08月23日 19:51